まほり 高田大介
大学の薬学部で卒業研究をしていた頃、生薬学講座に入った同級生が薬用植物の採集に出かけるたびに「『ねほり はほり』に行く」と称していたのを、実際に詮索好きだった彼の容貌とともに、この書名を見て脈絡なく思い出したりしたのですが
「図書館の魔女」の著者による本作「まほり」は、予想をはるかに超えて、とんでもなく面白かった!
いわゆる fun ではなくて interesting のほうなんだけれど
学生時代には岩波新書の内田恵太郎「稚魚を求めて」や佐々学 「風土病との闘い」など、その分野の先達が苦心惨憺しながら一家をなすまでの研究自叙伝、研究者の半生記みたいなものを好んで読んでいたこともあって、その読書感に近い興奮を覚えながらページを繰りました
大学院に進もうと思っている社会学者の卵(主人公)が、ひょんなことから郷土に伝わる神社仏閣の由来を調べてゆく過程で、自分の出自にも関わる「或る因習」にたどり着く
あらすじを極めて乱暴に書くと、これだけの「ミステリー」
そのミステリー(謎)を明らかにするために主人公が助力を請うて登場する史学、民俗学、はたまた言語学の専門家の研究手法やスタンスの記述、そして各人と主人公のやり取りが本当に面白くて
「史学というのは特定の時代、特定の場所に分け入って史料を丹念に集めてくる、地味な学問だと思っていた」という主人公と同じ認識しかなかったこちらの蒙昧さを散々に思い知らされます
本書で語られる史実として、幕末の1800年代後半までは食い扶持を減らす、口減らしのための子殺し、間引きが日本各地で広く行われていたという事実はかなりショッキングで、それを知り私は恐怖に近い感情を覚えました
ただ、amazonのレビューで本書を「ホラー小説」と書いている人がいましたが、題材となった史実がそうだったというだけで、物語そのものは決して「ホラー小説」ではありません
それどころか、主人公と同郷の幼なじみ「メシヤマ」女史が良い具合に絡んで、暗くなりがちなストーリーのなかに boy meets girl的な微笑ましさをふんだんに散りばめながら展開してゆくので、私にとっては極上の恋愛小説としても楽しめました。なにより二人が交わす方言混じりの会話が、実に楽しい!
理屈っぽい読後感を書きましたが、理屈抜きに楽しくて面白い本でした
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