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ひゃくはち

2010books

正月休みぐらいから小野不由美の十二国記シリーズをあれこれ読み返したり、長らくツン読だったこの2冊を。

「るり姉」は北上次郎の推薦だし、本の雑誌の上半期ベスト1という帯の惹句に大いに期待して読んだのだけど、期待の方が大き過ぎたみたい。読んで損する本では決して無い、というか、離婚・再婚した普通の家族の普通の日常が共感を持って読めるので、おすすめの本といってもいいのだけど、そのすぐ後に読んだ「ひゃくはち」があまりに面白すぎて。

去年、映画化されているらしい。あまり評判は聞かなかったから、そちらは芳しくなかったのかな。甲子園に出場する神奈川の野球強豪の高校球児たちが描かれた「熱血青春物語」。野球のシーンも、それ以外の部分もたっぷり楽しめる。甲子園のベンチ入りメンバーにぎりぎりで選ばれた主人公が深夜自宅の父親に報告する場面。

『もしもし・・・・・』
しばらくして親父の声が聞こえてきた。眠そうな素振りを装ってはいるが、気が気じゃなかったはずだと簡単に想像できる。
「俺だけど・・・・・」
わざともったいつけるような言い方をしてみても、親父は平静を装うのをやめようとしない。
『おう、どうした? こんな遅くに』
どうしたって、じゃあなんであんたはこんな遅くまで起きているって言うんだよ。
「いや、さっき甲子園のメンバー発表があったんだけど」
『ああ、そうか。今日だったか・・・・・。 うん、どうだった?』
なんか、スッゲーむかつく。
「うん、入ってたよ」
『・・・・・そうか。それは、そうだな。良かったな』
「うん。 ありがとう」
『そうか、そうか。それは良かった。 ええと、なんだ? それだけか?』
それだけか、って・・・・・。何なんだ、このクソ親父。ボケちまったか? もうダメだ。埒が明かない。会話ができない。
「もういいや、オフクロに代わって」

でも、母親は電話口に出ず、しばらくして慌てた素振りで妹が出る。そして父親が突っ伏して号泣し、母親がその背中を撫でている事を伝える。

題名の「ひゃくはち」はもちろん人間の煩悩の数、そして梶原一騎の「巨人の星」世代なら誰もが知っている、野球のボールの縫い目の数から。

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