食堂かたつむり
「児童文学」のイメージが強いポプラ社からの書き下ろし。しかも、デビュー作だという。1月15日の初版で、手元の本は2月17日の第4刷。今朝の朝日新聞の書評欄には「たちまち第8刷」の文字。この本が多くの人に読まれようとしているのは、うれしい。
望まずに山あいの実家に戻り、1日一組の客を相手に小さな食堂を始めた主人公の倫子。心をこめて作った料理を食べた客たちの満足そうな顔に、それなりに幸せな日々を過ごしている。しかし母の死をきっかけに心と体に変調をきたす。
なんだか体がぜんぜん動かないのだ。ほとんど食事らしい食事もしていない。私はなるべく命の含まれないものを選んで食べた。一日の食事の大半はインスタントの食品で、朝、昼、晩、カップラーメンなんて日もある。インスタントの食品には感情とか思い入れとかが一切なくて、感情過敏になってしまった私には、最適な食べ物なのだ。 ・・・ たまに自分で料理を作っても、自分の味しかしない。タコが自分の足を食べて腹を満たしているようで、猫が自分の性器をぺろぺろ舐めているようで、何かを食べているという実感が全然わいてこないのだ。
料理は、自分以外の誰かが心を込めて作ってくれるから心と体の栄養になるのだ。
そんな主人公も、死んだ母が使わしたとしか思えない野鳩をローストし、アマローネとともに味わうことで自分をふたたび取り戻す。
料理を、捨ててはいけない。
心からそう思った。
だからまた、一から料理を作りはじめよう、と。
身近な人に喜んでもらえる料理を作ろう。
食べた人が、やさしい気持ちになれる料理を作ろう。
食べた後、幸せになれる料理を、これからもずっと、作り続けていこう。
日本語が読めることの幸せを、つくづく感じた一冊です。
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