あかね雲の夏
学生の頃の理想通り、外資系コンサルタント会社に勤める傍ら、寸暇を惜しんで幾つもの資格を取得している杏子。勤めていた会社が倒産し、気乗りしないまま帰省した田舎で、出世が約束される親戚の会社への入社を勧められた俊太。二人は大学生時代に知り合い、一時期は恋人に近いような関係になったこともあったが、結局は仲のいい友達というところに落ち着いている。「身内ってことで将来も保証されているし・・」と親戚の所への就職をほのめかす俊太に、「・・・・最低だね」と冷ややかに言い放つ杏子。電話は着信拒否され、メールは無視されることに。
なんともヒドイ出だしだけれど、小説の本筋はそのあと俊太が辺鄙な地にある空き家となった本家の屋敷の管理をなりゆきから引き受け、そこで地元の人たちとの交流で経験する一夏の出来事にある。その中心は、友人を亡くした事で自分の殻に閉じこもる様になった少女、智穂との出会い。
「なあ、明日からも一緒に釣りをしたいんだけど、どうかな?」遠くに目を向けたまま聞いてみた。少しためらう気配があったが、智穂は頷いてくれた。「いいよ」
働く意味を考え直す。答えのない問いを考える物語。ちょっと恥ずかしいけれど心地よい甘さが感じられ、いま流行の「癒やし系」に分類されるらしい。確かに、気持ちが楽になる小説。
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